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千葉地方裁判所 昭和54年(行ウ)6号 判決 1982年12月22日

千葉県松戸市五香六実三二七番地

原告

添田一雄

右訴訟代理人弁護士

藤原晃

同県同市大字小根本字久保五三番地三

被告

松戸税務署長

梅澤孝正

右指定代理人

野崎彌純

池田準治郎

高野幸雄

大池忠夫

冨山齊

岩井明広

新井三朗

酒井和雄

斉藤忠雄

主文

一  被告が昭和五二年七月三〇日原告の昭和五〇年分所得税についてした所得税額等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五〇年分の所得税につき別表申告額欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は原告に対し、昭和五二年七月三〇日付で別表更正額欄記載のとおりの更正処分(以下、「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件賦課決定」という。)をした。

2  原告は被告に対し、昭和五二年八月二二日右各処分について異議申立をしたが、被告は同年一一月一八日右申立棄却の決定をしたので、原告は同年一二月一六日国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、昭和五四年三月二〇日これを棄却する旨の裁決がなされ、同年同月二二日右裁決書騰本が原告に送達された。

3  しかし、本件更正処分には、所得税法五八条が適用されるべき資産の譲渡につき右規定を適用しなかった違法があり、従って本件更正処分を前提としてなされた本件賦課決定も違法である。

よって、原告は被告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は、もと別紙物件目録一記載の土地(以下、「本件土地」という。)を所有していたが、昭和五〇年一二月八日これを有限会社共栄土地(以下、「共栄土地」という。)に代金九五〇万円で売渡し、右売買代金九五〇万円を、右同日手付金五〇万円、同月二三日中間金五〇〇万円、昭和五一年二月一六日残金四〇〇万円の三回に分けて、共栄土地から受領し、昭和五〇年一二月二三日本件土地を共栄土地に引渡した。そして、原告は、昭和五〇年一二月八日松沢日出夫(以下、「松沢」という。)から同人所有の別紙物件目録二(一)(二)記載の土地建物(以下、「六実不動産」という。)を代金九五〇万円で買受けた。

2  ところで、原告は、原告と松沢は昭和五〇年一二月八日本件土地と六実不動産とを交換したのであるから、所得税法五八条の交換の場合の譲渡所得計算上の特例規定(譲渡所得の計算上譲源資産の譲渡がなかったものとみなされる。以下、この規定を「本件特例」という。)の適用があるとして、昭和五〇年分所得税の確定申告にあたり譲渡所得の金額を零円として申告したのであるが、前記のように、原告は本件土地を共栄土地に売渡し、他方、松沢から六実不動産を買受けたのであって、原告主張のような交換の事実はないから、本件土地の譲渡所得の計算上本件特例は原告に対して適用されず、従って、本件土地の譲渡所得の計算は所得税法三三条、三八条等に定める通則的計算方法によることとなるのであり、更に、原告が本件土地を取得した日は昭和四五年五月一四日であるから、本件土地の譲渡による所得は租税特別措置法三二条による短期譲渡所得となる。

3  そこで、原告の本件土地譲渡による短期譲渡所得を計算すると、次のとおりである。

(一) 譲渡に係る収入金額 九五〇万円

(二) 取得費等必要経費 三六〇万円

右三六〇万円は、原告が昭和四五年五月一四日に共栄土地(当時は長谷川清次の個人企業)から本件土地を取得するために要した代金の額であり、他に必要経費はない。

(三) 短期譲渡所得の金額((一)-(二)) 五九〇万円

4  以上のとおり、原告の昭和五〇年分の短期譲渡所得の金額は五九〇万円であるから、右金額の範囲内である五七六万円を原告の同年分の短期譲渡所得の金額であるとしてなされた本件更正処分は適法である。

5  また、被告は、国税通則法六五条一項により、本件更正処分に基づき新たに納付すべき所得税額一九六万一〇〇〇円に一〇〇分の五の割合を乗じて得た金額九万八〇〇〇円(同法一一八条三項及び同法一一九条四項により、本税額一〇〇〇円未満の端数及び附帯税額一〇〇円未満の端数は切捨て)に相当する過少申告加算税を賦課決定したものであるから、本件賦課決定も適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張に対する認否

被告の主張1のうち、原告がもと本件土地を所有していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同2のうち、被告主張のように、原告が、本件土地を松沢所有の六実不動産と交換したのであるから本件特例の適用があるとして、昭和五〇年分所得税の確定申告にあたり、譲渡所得の金額を零円として申告したこと及び原告が本件土地を取得したのが昭和四五年五月一四日であることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

同3のうち、(二)の事実は認めるが、その余は争う。

同4及び5は争う。

2  原告の反論

(一) 原告は、昭和四〇年末ころから松沢所有の別紙物件目録二(二)記載の建物を賃借し、これに居住していたが、他方、昭和四五年五月一四日共栄土地から本件土地を買受け、これを所有していた。

(二) 昭和五〇年八月ころ、不動産仲介業を営む中嶌富士夫(以下「中嶌」という。)が、松沢の代理人として、原告に対し、松沢の相続税納税資金調達のため六実不動産を一〇〇〇万円で買取ってほしい旨申入れてきた。原告は、当時収入状態がきわめて悪く生計を維持するのがやっとという状態であったため、唯一の資産ともいうべき本件土地を処分して右買取代金を捻出しようと考え、かねてより税の申告等の相談をしていた公認会計士森田恵(以下、「森田」という。)に相談したところ、森田から、本件土地を原告において第三者に売却すればその譲渡益に対する課税を免れないが、松沢との間で本件土地と六実不動産を交換し、然るのち松沢が本件土地を第三者に売却すれば、本件特例の適用が受けられ、交換差益が法定の控除額を超えない限り原告は税金が賦課されないですむとの指導を受けた。そこで、原告が中嶌を介して松沢に右交換を申入れたところ、松沢は同年末頃までに本件土地を他に売却してその代金を取得できるのであれば納税資金調達の目的が達せられるので、交換に応じてもよいとの意向を明らかにした。中嶌は松沢の右意向を原告に伝え、原告もこれを承諾した。よって、ここに原告と松沢との間に、本件土地が第三者に売却できることを条件とする本件土地と六実不動産の交換契約又は交換予約が成立した。

(三) そこで、原告が右事情を共栄土地に伝え、松沢から本件土地を買受けるべき第三者の探索を依頼しておいたところ、同年一一月末ころ、共栄土地が九五〇万円であれば自ら本件土地を買受けてもよい旨の意向を明らかにしたので、原告は、中嶌を通じて松沢にこれを伝えた。松沢は中嶌に対し、原告との間で本件土地と六実不動産を交換し、かつ、共栄土地に対して原告から取得する本件土地を売渡すことについての代理権を授与した。

(四) しかして、同年一二月八日、原告と松沢の代理人中嶌との間で、本件土地と六実不動産を、昭和五一年二月一五日限り相互に右土地及び不動産を引渡し、かつ、所有権移転登記手続に必要な書類を取交す旨の約定で交換する旨合意し、同時に、本件土地を九五〇万円、六実不動産を九三八万円とそれぞれ評価して、その差額一二万円を松沢から原告に支払い、契約書に貼付すべき印紙代は原告において負担する旨の合意が成立した。また、同日、松沢の代理人中嶌と共栄土地の従業員下堀克己(以下、「下堀」という。)との間において、松沢が共栄土地に対し本件土地を代金九五〇万円で売渡し、共栄土地は同日手付金五〇万円を支払い、残金は昭和五一年二月一五日限り登記手続書類の交付及び土地の引渡と引換えに支払う旨の売買契約が成立し、下堀は中嶌に対して右手付金五〇万円を支払った。

(五) ところで、原告は、さきに森田から前記のような指導を受けた際、右のような交換契約が成立した場合、本件土地について登記上は松沢を省略して原告から直接第三者に名義を移す、いわゆる中間省略登記の方法があることを教示されていたのであるが、原告はこれを契約書上も松沢の名義を省略してもよい趣旨と誤解していたところから、中嶌及び下堀に対してもかような契約書を作成することを申入れ、中嶌らも同様の錯誤に陥った結果、右(四)に述べた取引については、売主を松沢、買主を原告とし、代金九五〇万円、契約成立時に手付金五〇万円を、残金は昭和五一年二月一五日限り土地引渡及び登記手続書類引渡と引換えに支払う旨の六実不動産についての昭和五〇年一二月八日付売買契約書と、売主を原告、買主を共栄土地とし、代金九五〇万円、契約成立時に手付金五〇万円を、残金は昭和五一年二月一五日限り土地引渡及び登記手続書類引渡と引換えに支払う旨の本件土地についての昭和五〇年一二月八日付売買契約書が作成された。また、下堀が中嶌に支払った手付金五〇万円についても、契約書にあわせるのがよいだろうとの三者の協議により、原告名義の共栄土地宛て領収証を作成した。更に、同年一二月二〇日ころに至り、共栄土地が松沢に内金(中間金)として五〇〇万円を支払うことになったが、その授受が予定された同月二三日に偶々中嶌が旅行に出かけて留守となるため、中嶌は予め原告に内金受領の権限を託した。そこで、原告は、同日、下堀から額面五〇〇万円の小切手を松沢の復代理人として受領したが、前記錯誤が持続していたため、原告名義の五〇〇万円の領収証を誤って作成してしまった。これらはすべて原告の前記誤解に起因するものであって、右のような売買契約書や領収書が作成されたからといって、右契約書どおりの契約が当事者間に成立したと考えるのは誤りである。

なお、原告は、前記五〇〇万円の小切手を同年末ころ旅行から帰った中嶌に交付し、同人は松沢の預金口座に入金の手続をとった。また、中嶌は、そのころ原告に対し前記交換差金一二万円を支払った。

(六) その後昭和五一年一月上旬、原告は森田から前記誤解を指摘されて自らの誤りに驚き、森田の指示に基づき契約書の書換えを中嶌、下堀に申入れたところ、もともと前記契約書が実際の法律関係に符合していないことに疑問をもっていた中嶌らは直ちに原告の右申入れを承諾し、松沢についても中嶌を介して了解が得られたので、同月中頃、原告と中嶌が松沢方を訪れ、前述の松沢、原告間の六実不動産の売買契約書はそのままにして、新たに、原告を売主、松沢を買主とし、代金を九五〇万円、契約成立時に手付金五〇万円を支払い、残金は昭和五一年二月一五日限り土地引渡及び登記手続書類交付と引換えに支払う旨の本件土地についての昭和五〇年一二月八日付売買契約書を作成した。そして、その翌日原告と中嶌が共栄土地に赴き、前述の原告、共栄土地間の本件土地の売買契約書を破棄し、あらためて、松沢を売主、共栄土地を買主とし、代金を九五〇万円、契約成立時に手付金五〇万円を、昭和五〇年一二月二三日内金五〇〇万円を支払い、残金四〇〇万円は昭和五一年二月一五日限り登記手続書類の交付と引換えに支払う旨の本件土地についての昭和五〇年一二月九日付売買契約書を作成した。

(七) しかして、同年二月一六日、原告と中嶌は本件土地と六実不動産の所有権移転登記手続書類を相互に交換するとともに、原告は本件土地を引渡した。そして、中嶌は、共栄土地の売買残代金四〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、原告から交付された本件土地の登記済権利証、原告の委任状及び印鑑証明書を下堀に交付し、本件土地を引渡した。

(八) 以上のとおりであるから、仮に前記(四)の各契約書が認められず、被告主張のように、昭和五〇年一二月八日原告が共栄土地に本件土地を、また、松沢が原告に六実不動産をそれぞれ売渡す契約が成立したとしても、原告、松沢及び共栄土地は、昭和五一年一月中旬ころ、右各売買契約を合意解除し、あらためて原告と松沢との間で本件土地と六実不動産を交換する旨の合意が成立し、その後松沢と共栄土地との間で本件土地の売買契約が成立したというべきである。仮に右主張が認められないとしても、昭和五一年一月中旬ころ、原告、松沢間で本件土地と六実不動産の交換契約が成立し、原告、松沢、共栄土地の三者間で、原告、共栄土地間の本件土地の売買契約の売主を原告から松沢に更改する旨の合意が成立した。

(九) よって、いずれにせよ原告は松沢との間で本件土地と六実不動産を交換し、然るのちに松沢が本件土地を共栄土地に売渡したのであるから、原告による本件土地の譲渡については本件特例の適用があり、従って、原告に譲渡所得ありとしてなされた本件更正処分は違法である。

五  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論(一)の事実は認める。

2  同(二)のうち、中嶌が不動産仲介業者であること及び森田が公認会計士であることは認めるが、中嶌を通じて原告から本件土地と六実不動産の交換の申入れを受けた松沢が、本件土地が第三者に売却できることを条件に右申入れを承諾したことは否認し、原告、松沢間に原告主張のような条件付交換契約又は交換予約が成立したことは争う。その余の事実は知らない。

3  同(三)のうち、原告が共栄土地に本件土地の売却先の探索方を依頼したことは認めるが、共栄土地が自ら本件土地を買受ける意向を表明し、原告が中嶌を通じてその旨を松沢に伝えた事実は知らない。その余の事実は否認する。

4  同(四)のうち、下堀が共栄土地の従業員であることは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同(五)のうち、原告主張の各売買契約書及び各領収書が作成されたこと(ただし、売主を原告、買主を共栄土地とする本件土地についての昭和五〇年一二月八日付売買契約書中、残代金の支払に関する条項の部分を除く。)は認めるが、これらが原告主張のような錯誤又は誤解に基づいて作成されたこと、共栄土地が松沢に内金(中間金)として五〇〇万円を支払うことになったこと及び原告が額面五〇〇万円の小切手を松沢の復代理人として受領したことは否認し、その余の事実は知らない。

6  同(六)のうち、原告主張の二通の売買契約書が作成された事実は認めるが、その作成された時期及び松沢が契約書の書替えを承諾したことは否認し、その余の事実は知らない。

原告は、本件土地を共栄土地に売却し、その売却代金をもって松沢から六実不動産を購入したのであるが、原告、共栄土地間の本件土地売買と松沢、原告間の六実不動産売買とが同時期に進行しているのを奇貨として、原告、松沢間で本件土地と六実不動産とを交換し、然るのちに松沢が本件土地を売却したことにして、原告の本件土地売買による譲渡所得に係る所得税を免れようと企て、昭和五一年二月一六日の最終残金の受渡しのころ、中嶌及び下堀と謀り、虚偽の事実を記載した前記二通の売買契約書を対税務署用に作成したのである。

7  同(七)の事実は知らない。

8  同(八)及び(九)の主張はいずれも争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五、第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、第二三号証の一、二、第二四号証の一ないし三、第二五号証の一、二、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証、第二九号証の一ないし一七、第三〇、第三一号証を提出。

2  証人中嶌富士夫、同下堀克己、同長谷川清次、同松沢日出夫、同森田恵の各証人及び原告本人尋問の結果を援用。

3  乙第一二号証、第一四ないし第一八号証の成立を認める。第九号証、第一〇、第一一号証の各一、二は原本の存在を認めるが、その成立は知らない、その余の乙号各証(第二、第六号証は原本の存在及び成立)はいずれも知らない、と陳述。

二  被告

1  乙第一ないし第九号証、第一〇、第一一号証の各一、二、第一二ないし第一九号証を提出。

2  証人長谷川清次、同松沢日出夫の各証言を援用。

3  甲第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証の一、二、第五、第六号証、第七号証の一ないし三、第九号証、第二〇号証の成立(第四号証の一、二は原本の存在及び成立)を認める、第一三号証、第一六号証は原本の存在及び署名捺印部分の成立を認めるが、その余の部分の成立は知らない、第二九号証の一ないし一七のうち、官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない、その余の甲号各証の成立(第一〇、第一一、第一四、第一五、第一九号証は原本の存在及び成立)は知らない、と陳述。

理由

一  請求原因1及び2の事実(本件更正処分及び本件賦課決定の存在並びに裁決の存在)は当事者間に争いがない。

二  そこで本件更正処分の適法性について判断する。

1  被告は、本件更正処分の根拠として、原告が松沢に対し本件土地を売渡したことにより譲渡所得が発生したと主張するのに対し、原告は、原告と松沢が本件土地と六実不動産を交換したのであるから本件特例を適用すべきであると主張するので、この点について検討する。

成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、第二、第九、第二〇号証、乙第一二、第一五号証、官公署作成部分の成立については争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二九号証の一ないし一七、証人下堀克己の証言により真正に成立したものと認められる甲第一八号証、乙第三、第四号証、同人の証言により原本の存在及びその原本が真正に成立したものと認められる乙第二号証、第一一号証の一、二(乙第一一号証の一、二の原本の存在については争いがない。)、証人中嶌富士夫の証言により真正に成立したものと訳められる甲第一二、第一七号証、同人の証言により原本の存在及びとの原本が真正に成立したものと認められる甲第一九号証、証人森田恵の証言により真正に成立したものと認められる甲第二三号証の一、二、第二四号証の一ないし三、証人長谷川清次の証言により原本の存在及びその原本が真正に成立したもとと認められる甲第一三号証(署名捺印部分が真正に成立したことは争いがない。)、同証人の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人松沢日出夫の証言により原本の存在及びその原本が真正に成立したものと認められる甲第一六号証(署名捺印部分が真正に成立したことは争いがない。)、証人中嶌富士夫、同松沢日出夫の各証言及び原号本人尋問との結果により真正に成立したものと認められる甲第八号証、証人中嶌富士夫、同下堀克己の各証言により原本の存在及びその原本が真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、証人下堀克己の証言及び原告本人尋問の結果によりその原本が真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一、二(原本の存在については争いがない。)、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二二、第三〇、第三一号証、その方式及び趣旨により公務員が、職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一九号証、証人中嶌富士夫、同下堀克己、同長谷川清次、同松沢日出夫、同森田恵の各証言、原告本人尋問の結果(但し、以上の各証拠のうち、後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和四〇年末ころから松沢所有の別紙物件目録二(二)記載の建物を賃借し、これに居住してきたが、他方、他方、昭和四五年五月一四日共栄土地(当時は長谷川清次の個人企業)から本件土地を買受けてこれを所有していたところ(以上の事実は当事者間に争いがない。)、昭和五〇年八月ころ、松沢は、相続税等の納税資金調達のため右建物を含む一九軒の家作をそれら敷地とともに売却処分くることとし、原告らの当時の賃借人に買取りを求めるべく、知合いの不動産業中嶌に右賃借人らとの売却交渉を依頼した。

(二)  松沢の意を受けた中嶌は、原告に対して前記建物及びその敷地(六実不動産)について坪当り一七万円、総額約九五〇万円の買取希望価格を提示してその買取りを求めた。これに対し、原告としては、本件土地以外に見るべき資産がなかったので、本件土地を処分して六実不動産を買受けるほかないと思ったが、かねて税務指導を受けていた公認会計士森田に相談して結論を出したいと考え、中嶌に対する返答を留保した上、同年九月二〇日森田に面会して助言を求めた。当時原告の営業状態が悪く生活にも困窮していることを知悉していた森田は、原告が本件土地を売却するとその譲渡所得に対して課税されるので、その納税資金が必要となる結果、六実不動産の買取資金に不足を来たすことを懸念し、原告と松沢が本件土地と六実不動産を交換した上松沢が本件土地を他に転売して換金すれば、原告は本件特例の適用を受けられるから本件土地の譲渡に対し課税されないですむと考え、原告に対して、右のような交換の方法を採るよう助言し、交換の方法を採ると松沢に対しては六実不動産の原告への交換による譲渡と本件土地の転売についてそれぞれ課税されるのではないかとの原告の質問に対し、六実不動産と本件土地はほぼ等価値であるから、本件土地の転売については譲渡益が発生せず、従って松沢が二重に課税されることはない旨説明し、更に、松沢が原告から交換により取得した本件土地を他に転売すると登記上は原告から転買入に直接登記名義を移すいわゆる中間省略の形式が採られるであろうが、それでも原告には課税されない旨補足的説明を加えた。ところが原告は、森田の右説明内容を正確に理解するに至らずにこれらを混同し、一方では自己への課税を避けるには交換の方法によることが必要であると認識したものの、他方では、自己への課税を避け、かつ、松沢への二重の課税を免れるには、本件土地については松沢の名義を出さずに原告と転買人との直接取引の形式を採らねばならないとの誤解に陥ってしまった。

(三)  原告は、中嶌に森田から受けた指導助言の趣旨を告げて六実不動産と本件土地の交換を申込み、中嶌が松沢に原告の意向を伝えたところ、松沢は、要は納税資金が得られればよいのであるから本件土地を確実に転売して換金できるなら交換に応じてもよい旨述べたので、中嶌はその旨を原告に伝えて本件土地の買手を原告が捜すよう要請した。その後松沢の紹介した不動産業者が原告方を訪れ、本件土地の所在場所を聞いて帰ったが、間もなく本件土地は買えないと連絡してきた。

(四)  そこで、原告は、共栄土地の代表取締役長谷川清次にそれまでの経緯を説明して、本件土地が一〇〇〇万円位で売れるようその仲介をしてもらいたい旨依頼した。共栄土地は買手を捜すべく手を尽くしたが、結局買手が見つからず、旁長谷川が娘夫婦に家を建ててやりたいと考えていたところから、同年一一月ころ、九五〇万円でなら共栄土地自ら本件土地を買受けてもよい旨原告に申し出、原告がその旨を中嶌を経由して松沢に伝えたところ、松沢はこれを了承し、中嶌に対し、以後の交渉を委せる旨述べた。

(五)  そこで、同年一二月初めころ、中嶌及び共栄土地の従業員下堀が取引内容の細目について協議し、話合いがまとまったころから、同年一二月八日、右三名が原告方で会合し、中嶌及び下堀がそれぞれ持参した市販の売買契約書用紙を使用し、六実不動産については売主を松沢、買主を原告、代金総額九五〇万円、うち手付金五〇万円を契約締結と同時に、残金九〇〇万円を昭和五一年二月一五日限り右不動産の引渡及び所有権移転登記手続と引換えに支払う旨記載した売買契約書(甲第九号証)を、また、本件土地については、前示のように森田の指導を誤解した原告の意向に従い、売主を原告、買主を共栄土地、代金総額九五〇万円、うち手付金五〇万円を契約締結と同時に、中間金五〇〇万円を昭和五〇年一二月中にそれぞれ支払い、残金四〇〇万円を昭和五一年二月一五日限り右土地の引渡及び所有権移転登記手続と引換えに支払う旨記載した売買契約書を作成した。中嶌及び下堀は、本件土地について右のような売買契約書を作成することは、原告と松沢との間で本件土地と六実不動産を交換した上松沢が共栄土地に本件土地を売渡すという取引の実態にそぐわないのではないかとの疑問を抱いたが、森田からこのような「中間省略」でも本件特例の適用を受けられると聞いているからこれでよいとの原告の誤解に基づく説明を受け、右取引について最も税務上の利害関係を有する当の原告さえそれで良ければ差支えないであろうと考えて、右のような売買契約書の作成に異議を唱えなかった。そして、下堀が手付金支払のために用意した額面金額五〇万円の小切手を中嶌が受領し、右手付金について、原告は共栄土地宛の領収書を、中嶌は松沢名義で原告宛の領収証をそれぞれ作成、交付した。なお、右六実不動産についての売買契約書及び松沢名義の領収書の松沢の署名は、予め同人から与えられた権限に基づいて中嶌が代行し、また、その名下の捺印も、中嶌が予め松沢から預かっていた印鑑を用いて行った。

(六)  前記本件土地についての売買契約書の中間金支払条項は、昭和五〇年中に五〇〇万円を入手したいとの松沢の意向に副って定められたものであるところ、下堀は、昭和五〇年一二月二三日、本件土地の中間金として松戸市農業協同組合常盤平支店振出の額面金額五〇〇万円の小切手(乙第一〇号証の一、二の原本)を原告方に持参した。下堀としては、右売買契約書上の売主が原告となっている以上中間金は原告に支払えばよいとの認識であったが、他方原告は、予め中嶌から「下堀が二三日に中間金を持参することになっているが、自分は旅行中でいないから、預かっておいてほしい」旨の依頼を受けていたところから、右小切手を受取り、自己名義の共栄土地宛領収証を作成して、下堀に交付した。原告は、右小切手を松戸市農業協同組合六実支店長星野和央に一時預託した。その際、同支店長から原告の預金口座への入金を勧められたがこれを断り、個人的な立場で事実上預かってもらい、同月二五日、右小切手を買支店長から受取って中嶌に交付し、中嶌は原告に松沢名義の領収証を作成、交付した。右五〇〇万円は、松沢日出夫名義で三〇〇万円、松沢いち名義で二〇〇万円の定期預金として同支店に預け入れられた。

(七)  原告は、同年一二月三一日、前記二通の売買契約書を持参して森田を訪れ、同人の指導に従って成約に至った旨を報告したところ、右各契約書の記載内容からは原告と松沢が交換契約を締結したものと解釈することはできず、これを資料としては本件特例の適用を受けることはできない、とその不備を指摘され、関係者の承諾を得て改めて契約書を作成し直すよう指導された。そこで原告は、中嶌及び下堀に対し右事情を告げて契約書の書替えを申入れ、中嶌を介して松沢の了解も得られたので、昭和五一年一月中旬ころ、松沢の自宅において、同人立会のもとに、本件土地について、売主を原告、買主を松沢とし、代金総額九五〇万円、手付金五〇万円を契約締結と同時に支払い、残代金九〇〇万円は昭和五一年二月一五前限り本件土地の引渡及び所有権移転登記手続と同時に支払うとの昭和五〇年一二月八日付売買契約書(甲第八号証)を、次いで原告と中嶌が共栄土地の事務所に赴き、同所において、中嶌と下堀が、売主松沢、買主を共栄土地とする本件土地についての同年同月九日付売買契約書(甲第一〇号証の原本。代金及びその支払時期等については、前記原告、共栄土地間の売買契約書に同じ。)をそれぞれ作成し(右各売買契約書作成の事実は当事者間に争いがない。)、これに伴い、本件土地に関する前記原告、共栄土地間の売買契約書は破棄された。なお、新たに作成された二通の売買契約書の松沢の署名捺印は、前同様松沢の事前の了解のもとに中嶌が代行した。

(八)  しかして、昭和五一年二月一六日、中嶌は、松沢から預かった六実不動産の登記済権利証の交付と引換えに、原告から本件土地の登記済権利証、原告の委任状及び印鑑証明書の交付を受け、直ちに共栄土地に赴き、同所において、本件土地についての右所有権移転登記手続書類を下堀に交付し、これと引換えに、下堀から本件土地の残代金として松戸市農業協同組合常盤平支店振出の額面金額四〇〇万円の小切手を受取り、同日付で本件土地代金五〇万円の松沢名義の共栄土地宛領収証(甲第一二号証)を作成してこれを下堀に交付した、その後、本件土地について千葉地方法務局松戸支局同年二月一八日付受付第五九六四号をもって原告から長谷川の娘夫婦である織戸正良、久江両名に対する同年同月一六日売買を原因とする所有権移転登記がなされた。また、六実不動産については、松沢の意を受けた中嶌と原告から高橋健二司法書士に対して所有権移転登記手続の嘱託がなされたが、土地地積更正手続の遅れからその実行が遅れ、同年三月四日ようやくその実行をみるに至った。右所有権移転登記の申請にあたり、高橋司法書士は、原告らの嘱託の趣旨に従い、別紙物件目録二(一)記載の土地については登記原因を「昭和五一年二月一七日交換」とし、同目録二(二)記載の建物については登記原因を「昭和五一年二月一七日売買」として登記申請を行ったが、登記簿上には右土地についても登記原因を「昭和五一年二月一七日売買」とする所有権移転登記がなされた。しかし、この点については、のちに、千葉地方法務局長の許可を得て、昭和五四年八月六日付をもって登記原因の「売買」を「交換」とする更正登記がなされた。なお、前記額面金額四〇〇万円の小切手は昭和五一年三月四日現金化され、松戸市農業協同組合六実支店の松沢の普通預金口座に入金された。

以上の認定に反する前掲甲第一八、第一九号証、乙第一号証の各一部及び証人松沢日出夫の証言の一部並びにその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第五、第一三号証の各一部は採用せず、他に以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

2  以上の事実に基づいて本件土地をめぐる取引の法的性質について考えるに、右取引について昭和五〇年一二月八日に原告、松沢、共栄土地間で前記1(五)のような契約書が取交わされ、かつ、手付金及び同月二三日に支払われた中間金について同(五)及び(六)のような領収書が作成、交付された事実をみると、原告が本件土地を代金九五〇万円で共栄土地に売渡し、その売却代金をもって松沢から六実不動産を買受けたかの如き外観を呈しており、前掲乙第二、第三号証(右手付金及び中間金の支払に関する共栄土地作成の振替伝票及び出金伝票)及び証人中嶌富士夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第九号証(六実不動産の取引について中嶌が作成した取引台帳)にもこれを裏付けるかの如き記載があるから、これらに依る限り、本件土地は原告から直接共栄土地に売渡されたものであって、松沢と原告が六実不動産と本件土地とを交換した上松沢において本件土地を共栄土地に売渡したものではないとの被告の認定判断にも一応の合理性があるとしなければならない、しかしながら、原告が、本件土地と六実不動産を交換してもらい、然るのちに松沢が本件土地を他に売却処分すれば、原告にとっては本件特例の適用を受けられる利益があり、他方松沢としても二重の所得課税を受けることなしに納税資金調達の目的を達することができるとの森田公認会計士の助言指導に従い、中嶌を通じて本件土地と六実不動産を交換することにつき松沢の了解を取りつけた上(原告本人尋問の結果によれば、松沢は、右のような取引方法を採っても自分が二重に所得課税を受けるおそれがないことについて専門家の意見を聴いた上で、右了解を与えたことが窺える)、松沢の代理人と認められる中嶌及び共栄土地の代理人下堀との間で右了解を前提に取引を進め、松沢、原告間において六実不動産と本件土地を交換した上松沢において代金九五〇万円で共栄土地に売渡す旨の合意に達したことは、前記認定の事実関係に徴して十分これを認めることができる。ただ、右合意を文書化するに際し、前記のような原告の誤解から、あたかも原告が本件土地を代金九五〇万円で共栄土地に売渡し、その売却代金をもって松沢から六実不動産を買受けたかの如き内容の契約書を作成してしまったもので、中嶌及び下堀としては、従来の交渉経過やその不動産取引業者としての知識、経験から右のような内容の契約書作成に疑問を抱いたものの、原告が公認会計士の指導によるものと説明してこれでよいとの態度を示したため、特に異議を述べず、手付金及び中間金の領収書についても右契約書の記載に従った処理をし、共栄土地内部の経理面及び中嶌の不動産取引業者としての取引台帳作成上も同様の処理をしたにすぎないことが、前記認定の事実関係並びに前掲甲第一八号証、証人中嶌富士夫及び下堀克己の証言によって明らかである。そして、森田から右契約書等を資料とする限り本件特例の適用を受けられなくなると指摘され、原告の誤解が明らかになった後においては、原告は、松沢及び共栄土地の承諾を得て契約書を前記合意の趣旨に従って作成し直し、その後の残代金の支払及び所有権移転登記手続もすべて右合意に従って処理されており、前掲乙第四号証、証人下堀克己の証言並びにこれにより原本の存在及びその原本が真正に成立したものと認められる甲第一一号証によれば、共栄土地内部における経理処理及び取引台帳の記載も同様に改められていることが認められる。もっとも、右のようにして作成し直された契約書の形式は依然として売買契約書であって、原告・松沢間において交換契約書が作成されていないけれど、これは偶々手もとにあった市販の売買契約書用紙を漫然と使用したためであると認められるのであって、前記同意とこれに引続く代金支払(前記中間金も原告が代理受領したものと認めて差支えない。)及び所有権移転登記手続の履行行為を含めて全体として眺めれば、右作成し直された契約書は、原告と松沢の代理人である中嶌との前記交換の効果意思を反映しているものと認めることができ、右契約書の形式の点は前記合意を交換と認めることの妨げとはならないというべきである。なお、証人下堀克己の証言により原本の存在及びその原本が真正に成立したものと認められる乙第六号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第八号証及び証人長谷川清次の証言によれば、共栄土地は、本件土地上に建物を新築して、これを本件土地と共に長谷川清次の娘夫娘である織戸正良、久江両名に売渡すこととし、昭和五〇年一二月一六日付で右両名との間で売買契約書を取交わした上、同月二三日ころ原告の了解を得て本件土地の土盛工事に着手し、昭和五一年一月下旬ころには建物建築に着工したことが認められ、右工事着手時期が本件土地と六実不動産との交換がなされた昭和五〇年一二月八日の後であるのに、右着工が松沢ではなく原告の了解を得てなされた点に、右交換の成立に疑いを挾む余地があるかの如くであるが、松沢は、原告との交換契約によって一旦本件土地の所有権を取得したとは言え、納税資金調達のために右交換と同時に本件土地を共栄土地に売渡したのであって、本件土地の利用について実質的な利害関係を有していた訳ではないのであるから、共栄土地が右工事着手について当時の登記簿上の所有名義人である原告の了解を取りつけて、松沢の了解を得なかったからといって、そのことが直ちに前示交換の成否に影響を及ぼすものとは認め難い。また、成立に争いのない甲第七号証と三、証人森田恵の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件についての国税不服審判所における審理の段階でいわゆる交換差金の問題を持出し、松沢から交換差金として約一二万円を受領した旨主張しており、甲第一四、第一五号証にも右主張に副う記載が存在する。しかし、証人中嶌富士夫の証言によれば、右交換差金授受の事実はなかったものと認められ、原告が交換差金の問題を主張するに至った動機ないし理由は必ずしも明らかではないけれども(原告は、森田が、本件土地及び六実不動産の坪数と前記各売買契約書上の単価とから割り出した旨述べている)、このことも前記交換成立の認定判断を左右するほどの事情ではないと考えられる。更に、前記認定のように本件土地の残代金四〇〇万円支払のための小切手が授受された昭和五一年二月一六日から六実不動産について所有権移転登記が経由された同年三月四日までの間にほぼ半月のずれがあり、しかも右小切手が右同日現金化されて松沢名義の預金口座に入金されていることから、右小切手がこの間原告の手もとに留保されていて、右所有権移転登記手続と引換えに松沢に交付されたのではないかと疑う余地があるかの如くであるが、右小切手が共栄土地から松沢の代理人である中嶌に直接交付されたこと及び右所有権移転登記手続の遅れが土地地積更正手続の遅れに起因することはさきに認定したとおりであるし、前掲甲第三一号証によれば、前記高橋司法書士は昭和五一年二月一六日に原告及び松沢の代理人中嶌から登記手続の依頼を受けたが、原告から預かった登記書類を手もとに留めたまま地積更正手続がすむのを待っていた可能性も十分にありうる(前掲乙第一五号証に添付されている右登記手続書類のうち原告の住民票謄本の日付が昭和五一年二月一六日であることに注目すべきである。)ことが認められるから、右残代金支払の時期と所有移転登記及び小切手現金化の時期とのずれは、直ちに前示交換の成立を否定すべき根拠とはなり難いものというほかはない。最後に、既に認定した経緯に照らせば、原告が本件土地と買手を見付けることが、本件土地と六実不動産との交換成立の前提とされていたものであり、そうであれば、右交換の実態は、本件土地売却代金による原告と松沢間の六実不動産の売買ではないかとの疑問が残らないわけではない。しかし、原告本人尋問の結果によれば、原告としては、もともと、松沢の申出た六実不動産の買取りに応ずる義務がないのに、日頃家主として世話になっている同人に協力する意味で、前記1(二)及び(三)のように、森田の助言に従って、本件特例の適用が受けられ、かつ、金銭上の出捐の伴わない六実不動産と更地である本件土地との交換という形でこれに応じたものであること、原告は、当初、本件土地の処分を交換により所有者となる松沢に委ねるつもりでいたが(現に、前記1(三)のように、同人も不動産業者を通じてその買手を捜したこともあった。)、全く好意的に同人の依頼を容れ、売却の便宜をも考えてかつての売主であった共栄土地にその売却仲介を委託したものであることが認められ、この事実によれば、原告としては、松沢の納税資金調達に協力しようとの好意的意図の下に、将来同人の所有となる本件土地の買手を予め確保すべく行動したに留まり、自己所有地を売却するとか、その売却代金を取得し又はこれを利用するというような意思を全く有していなかったことは明らかである。そして、本件土地売却代金が売栄土地から松沢の代理人中嶌の手を経て松沢に渡ったことは、前記1(五)、(六)及び(八)のとおりであるから、譲渡所得の対象とされる本件土地代金の帰属者が、法律的に見ても、実質的に見ても、松沢であると認めることができるのである。その他前記認定の諸事実及び説示に照らせば、本件取引における経済的、法律的実態及び法律上の形式は、いずれも本件土地と六実不動産の交換と認めるのが相当であり、原告と松沢間において、本件土地売却が前提とされていたとしても、そのことによって、以上の判断が左右されることにならないものというべきである。

そうであるとすれば、本件土地は、原告と松沢との間において六実不動産と交換された上、松沢において共栄土地に売渡したものと認めるべきであり、被告主張のように原告から共栄土地に売渡されたものと認めることはできない。右交換は、専ら原告が本件土地を自ら売却処分することによって課税の対象となる譲渡所得が発生することを避けるために行われたものであることは、前記認定の事実関係に徴して明らかであるが、本件特例自体右のような節税目的をもってする交換のありうることを否定していないことは条文上明らかであり、本件交換に所得税法五八条の定める適用の除外事由があるとは認められないから、本件交換については本件特例の適用があり、原告には本件土地の譲渡による譲渡所得の発生がなかったことに帰着する。

三  してみると、本件土地が原告から共栄土地に売渡されたものとし、これによる譲渡所得が原告に発生したものとしてなされた本件更正処分は違法であり、従ってまた本件更正処分を前提としてなされた本件賦課決定も違法であるから、いずれも取消を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 魚住庸夫 裁判官 佐藤明)

(別表)

<省略>

(別紙)

物件目録

一 松戸市常盤平西窪町一一番三一

一 宅地 一七七・四三平方メートル

二(一) 松戸市五香六実字柳沢三二七番六

一 宅地 一七九・七五平方メートル

(二) 同地上

家屋番号 三二七番六

一 木造スレート葺平家建居宅

床面積 四三・三八平方メートル

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